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「雨のち快晴」
2006-05-09 Tue 23:46
「ねえ、ゆーこ。」
「ん?」

あたし達は、この町で一番小さくてボロくて偏差値の低い高校に通っている。

人気モデルとどこまで同じヘアスタイルに近づけるかに熱意を燃やし、ミニスカートから出る太ももをどれだけ細く出来るかに命を懸ける《きょーこ》と、
自慢のロングヘアーを出来るだけ長く伸ばすことに執着し、小さな胸をなんとか大きく見せようという努力を惜しまない私《ゆーこ》は、小学校からの親友だ。

「最近なんかいい感じの男子いた?」
一週間に2回はこの質問をするきょーこにも

「いたらこんな所にあんたと居ないっつーの」
毎回同じような返答をするあたしにも彼氏は、いない。

実はお互い「16年間彼氏無し」同士なのだが、周りの成熟の早さと経験の豊富さに出遅れたことが恥ずかしくて、みんなには2,3人元彼がいたことにしている。
ここらへんが、思春期の乙女の悩みどころというものだ。

小学生とか中学生とかで興味本位でHをしてしまう最近の風潮には実のところついていけないけど、郷に入らば郷に従え、という言葉通り、あたしもきょーこも中学2年で“経験済み”ということになっている。

ファースト・キスもまだ経験したこともないのに、Hの経験談なんて語れるはずもないからいつも適当に話をはぐらかしているけどね。

「あ!マック食いたくなってきた!行かない?マック。」

いつもきょーこは唐突にマック行きを提案する。
それが話の途中だろうがシリアスな場面だろうがお構いなしに、彼女の中に組み込まれた何かのプログラムがいきなり作動するらしい。

でも、その言葉を聞くとなぜかこっちも食べたい衝動に駆られてしまうから不思議でならない。
頭の中で、温かいポテトとハンバーガーを頬張る自分の姿が瞬時に想像出来てしまう内はまだまだ若いっていう証拠なのかな?

「またかよ~。好きだねきょーこ、マック」

内心、既に何を注文しようかグルグル思案し始めているのに“仕方がなく”親友に付き合う振りをするのもいつも通り。

あたし達の日常はこんな風に、大した波風が立つわけでもなく、劇的な新展開が起きるわけでもなくのらりくらりと過ぎていく。

部活動に青春時代を費やしたり、恋愛相手に一喜一憂させられたり、そんな若々しい日々を全員が送っていると思っているのは大人達の幻想でしかない。実際はね。

でも、誰々が校内一美人の先輩に告ったとか、世界史のあの先生は絶対ズラだとか、そんなどうでもいい些細な事ひとつひとつに爆笑しながら何時間も話していられるのって、やっぱり“箸が転げても可笑しい年頃”真っ最中ってことなんだろう。

これが青春ってやつなのかな。
10年後、20年後に私は今のこの日々を思い出して、《青春時代》をこんな風に過ごしたことを懐かしく思えるんだろうか?
何でもっと恋愛を楽しまなかったのか、とか、せめて部活で爽やかな汗を流せば良かったのにとか、いろいろいちゃもんつけたくなるのかもしれない。

だって、今はこれが自分にとっての最高な青春時代の過ごし方なんだから仕方ないじゃん。
今この時が楽しければそれでいい。それこそが青春ってもんじゃない?

でも、こんなことを考えてしまうこと自体、今の自分に不安を感じているってことなんだよね・・・
それも、認めたくなかったけど分かってるんだ。

「あ~、めんどくせ~!」

袋の中に数本残っている短いポテトをつまみながら突然ため息混じりに嘆くあたしに、きょーこは

「だよね~、こういう短いやつは入れんなっての!」

と、ちょっと勘違いしたコメントを返してくれた。


きょーこはこんなこと考えたりしないんだろうか。
見ている限りでは、悩みのなさそうな(ひでえな)お気楽女子高生に見えるんだけど・・・

2,3時間粘ってからあたし達はマックを出て、まただらだらと家へと向かって歩き始めた。

金八にでも出てきそうな川辺を歩きながら飽きずに交わす、どうでもいいようなくだらない会話。
なんでこう女同士のおしゃべりって絶えることがないんだろう?

そんな時、二人の間にちょっとした沈黙の時間が流れた。

もう八時を過ぎていて、田舎に分類されるこの地域には既に人影は無く、近くの民家の明かりだけがあたし達を優しい光で包んでいた。
いつもはこんな沈黙を破るのはきょーこのオトボケ発言だったりするのだが、今日はなかなか口を開かない。

さすがのきょーこもネタが切れたか?
と思っていたら

「ねえ、ゆーこ」

やっぱりきょーこが話し始めた。

「ん?」

「・・・あのね・・・」
うつむいた彼女の顔をその長い髪が覆い隠し、顔の辺りが一段と深い暗闇に包まれているようだった。

「どした?」

いつもと何か様子が違う。
なかなか次の言葉が出てこないきょーこにあたしは少し嫌な予感がする。
なんだろう?
こんな煮え切らない彼女は見たことがない。
そう言えば、マックでも今日の彼女はどこか少しよそよそしいような、時々ふと宙を見つめるような素振りがあった気がする。

なんで気付いてあげられなかったんだろう。

彼女の中で、こんなにも“何か”が起こっていたいたのに・・・


「あのね・・・」

4回目のその言葉を言い終えるか終えない内に、きょーこはとうとう涙目になってその場にしゃがみこんでしまった。

「ちょっ・・どうしたの?!」

さすがのあたしもこんな状態の“きょーこ対応マニュアル”は持ち合わせてなかったからどうしていいかまったく分からない。
ただ慌てふためきながら彼女の側に一緒にしゃがみこんで肩や背中をなでるしか出来なかった。

10分くらい嗚咽と共に泣き崩れていたきょーこがやっと放った一言に、あたしは頭が真っ白になった。

「・・・あたし、赤ちゃん出来ちゃったみたい・・・」

「えっ・・・あ・・かちゃん・・・?」

予想外の言葉に、あたしはそれ以外の言葉が全く出てこなかった。

相手はどんな奴だとか、いつそんな《出来事》が起きたのか、なんて疑問がぼんやりと頭の中に浮かんだが、何よりもあたしの知らないきょーこがいた事がショックで仕方がなかった。

いつでもどこでも一緒に居たんだと思っていたけど、実際はこんなにも知らない彼女が存在したなんて・・・
あたしの知らない誰かに恋をし、その相手に心も体も委ねるくらいにちゃんと恋愛をしていたことを、あたしは全く気付くことすらなかった。

こんな状況なのにあたしは、彼女をその“誰か”に奪われた気がして小学生の様に嫉妬心すら芽生えていた気がする。
どこまでも、あたしは本当に子供のままだ。
そんなあたしに彼女にしてあげられることなんて果たしてあるのだろうか――?

何一つ適当な言葉も思いつかないまま、あたし達は長い間しゃがみこんだまま抱き合っていた。
きょーこは小さな背中をさらに小さくして、あたしなんかには想像も出来ないくらい大きな戸惑いと混乱の中から必死に立ち上がろうとしているんだろう。

これから、きょーこは人生で一番辛くて悲しい体験をしなければいけない。
お金だって、あたし達にとってはかなりの大金が必要になるはずだ。
正直、どうしたらいいのかなんて今のあたしにはまったく分からない。
こんな時、自分はまだどうしようもなく《子供》なんだってことを思い知らされる。

でも、あたしはこの親友を守らなきゃ。
どんなことがあっても、あたしだけは味方でいるんだ、絶対。


夏の匂いがかすかに漂う土手の上で、あたし達はちっぽけで無力な体を寄せ合いながら今初めて、巨大で絶望的な未来に立ち向かおうとしていた。

青春って、苦いな~・・・

あたしも涙でぐちゃぐちゃになりながら、そんなことを思ってしまった。

明日からどうなるかなんで分からないけど、あたし達はこの青春の真っ只中で、今初めて大きな困難にぶち当たったってことはこれではっきりしたってことだ。

そっちがそうくるなら、正々堂々やってやろうじゃないの!

少し的外れな宣戦布告を神様だか運命だかに言い放った後、あたしはきょーこをゆっくりと立ち上がらせてずっと俯いたままの彼女をまたギュッと抱きしめた。

「大丈夫。大丈夫だから」

何がどう大丈夫かなんてあたしにもきょーこにも分からないけど、その言葉だけがあたしたちに少しばかりの力を与えてくれそうだった。

大丈夫。

大丈夫。

まるで呪文のように、何度も何度も繰り返した。

十数回目のその言葉に、やっと彼女は笑顔を取り戻し、
「九官鳥かよ」
と、ちょっとだけ涙で震えた声で突っ込みを入れてくれた。

うん。
きっと大丈夫。

今はその言葉だけを信じていよう。

明日からは雲一つ無い快晴になるらしい。
あたしときょーこの青春も、そんな晴れ晴れとした青空になればいいなとふと思った。

あたし達は小学生みたいにしっかりと手を繋ぎながら、すっかり暗闇に包まれてしまった家路をゆっくりと歩き始めた―――

<終わり>
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